1.従来までの戦略の定義
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現在、経営における戦略の定義は未だ普遍的なものは存在せず、図表3の例のようにいまだに多くの提案がされ
ている。
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ただし、これらの定義をもとにすると戦略経営の目的にたどり着かないこともあるし、その解釈で戦略を立案し
た場合、ある部分だけの解しか得られず、経営のツールとしてうまく機能しないことも少なくない。
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2.統合企業戦略論における戦略の定義
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戦略経営の目的やあるべき機能などを合理的に検討すれば経営における戦略は、戦略を統括すべき個人の発想に
基づく「"実現方法(方策)をともなう(将来)構想" 」と定義せざるを得ない。
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ただし、ここでいう「方策」には「方向性、方針」「方策に関わるコンセプト」「実行戦略」を含み、構想には
「想定する企業像」「目標、構想に関わるコンセプト」「目標」等を含むものとする。
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3.戦略の特性(正しさと質の良さ)
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戦略は発想により創り出される「実現方法を伴う構想」であるから、その内容は立案者により千差万別となり、
立案者が異なれば異なる戦略となり、全く同一の戦略は立案されない。
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しかも将来に向かってのものであるから、どの戦略が正しいかは立案時点では分からない。正しいかどうかは結
果でしか判定できない。
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その戦略内容が凡庸であるか非凡か、積極的な内容か消極的か、革新があるか無いかなどは戦略の正しさとは無
縁である。
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結果的に成功した戦略が正しく適切な戦略であり、失敗した戦略は正しくない戦略である。
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ただし、「形式的な面」「手続き的な面」「組織管理的な面」「実行可能性、容易性」などから見た場合、優れ
た戦略は存在する。これを「正しい戦略」と区別して「質の良い戦略」と呼ぶ。
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形式の観点でみれば全体の整合性が最も重要で、全体の整合性の高い戦略は優れた戦略である。
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基本戦略と実行戦略(後述の戦略模式などを参照)の整合性、戦略を構成する要素相互の相乗効果、それぞ
れの部分を総合すると、自ずと全体像が浮かび上がるような関係などがある戦略は、整合性が高く、質が高
い戦略と評価できる。
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手続き的に優れているとは戦略の立案において必要な情報を収集し、理解、認識して戦略を作成しているこ
とである。
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戦略経営が"環境に自社が適合するためのもの"であるとすれば、適合すべき環境の認識や適合主体である自
社の状況の認識が前提としてある方がより良いからである。
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組織管理的観点から見た優れた戦略とは、組織を構成する人々に分かりやすく、納得が得やすい戦略のこと
を言う。
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経営に関わる戦略は組織の発展や存続の為にあるが、その組織は人によって構成されている。戦略を実行す
るのも人である。その人々が理解しやすく賛同できる戦略が望ましいからである。
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実行、実現できない戦略は意味がないため、実行、実現できる内容であることが「質の良い戦略」の一つの
条件でもある。
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しかし、どのように質の良い戦略であっても先に挙げた正しい戦略であることとイコールではない。
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また、優れた戦略と突飛な思いつき(奇策)の間にはなんら関係ない。
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ただし、普通の人には思いつかない戦略であっても、その立案の根拠や理由が十分に合理的である策は奇策とは
言わない。
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4.組織における戦略の特性
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企業は事業で構成されており、事業は製品・サービス(以降、サービスも含めた意味での製品または製品等
と言う)の集合であるが、その構造に対応して戦略が存在する。それが企業戦略、事業戦略、製品戦略であ
る。
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そのような関係から考えれば、上位の戦略で下位の戦略内容を作成することも許容される。
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例えば企業戦略の要となる方策がある特定の製品にかかわるもので、その帰趨が企業の命運を左右するよう
な場合は企業戦略で製品戦略に該当する内容を検討し、立案するのが当然であり、むしろそうあらねばなら
ない。
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しかし、下位の戦略が上位の戦略を決定するようなことは有ってはならない。
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勿論、上位の戦略が決定したことを覆したり、これに逆行するような戦略内容であってはならない。
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組織と権限の構造から製品戦略と事業戦略の間にも同様の関係が成立する。
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このような戦略内容や対象に関する制約をその戦略に関する「戦略の自由度」という。
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前項に述べたように企業内には企業戦略の他に組織もしくは権限に対応して戦略が存在するが、それらがバ
ラバラであっては、戦略経営は成立しない。従って、これらの戦略は実質的に一体であることが必要であ
る。
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また、内容だけでなく、個々の方策の実施の程度(実施強度)に関しても戦略と実行戦略の間に齟齬があっ
てはならない。
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このような戦略内容の相互の整合性もしくは目的と手段の関係の強いこと、実施強度に関する一致を「戦略
の一体性」と呼ぶ。この「戦略の一体性」は戦略経営の要件でもある。
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企業規模が大きいことのメリットは少なくないし、規模に社会の期待と信頼が集まることもあり、企業は発
展に合わせて必然的に巨大になる傾向があるが、その巨大な組織は機能も分化するし、管理のため指揮系統
は幾層にもなり、これらに対応した多数、多段階の戦略が生じ、それぞれが異なるベクトルをもつ傾向があ
る。その中でも特に企業戦略と研究開発戦略および事業戦略の乖離は戦略経営の大きな問題であり、解決す
べき課題である。
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戦略の特性には直接該当しないが、表現記述の方法に決まりはなく定型はないことも認識しておくべきこと
である。
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5.戦略の周辺(周辺に何があるか、から理解する)
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戦略の周辺には戦略に関連して存在するものや戦略に類似するものも少なくないが、これらの戦略との違いや関
係を明らかにし、区別することで戦略が一層分かりやすくなる。
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戦略からみれば、理念が直接的に関係することはほとんど無い。企業理念も重要な企業要素ではあるが、企
業に属する人の精神的規範であり価値観にとどまっている限り全く別物と言わざるを得ない。
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強いて言えば、すでに述べたように、理念は戦略立案者の思考範囲や思考方法、方策の選択において制約の
役割を果たすことが考えられる。
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ビジョンは大別すれば戦略的ビジョンと理念的ビジョンにわけることができる。いずれも戦略や理念を目に
見えるがごとく、分かりやすくしたものである。
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理念的ビジョンは原点が理念であるから戦略とは全く異なるものである。
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一方、戦略的ビジョンは戦略と共通項を持っていることが多いが、あくまでも経営者などの願望的将来像や
目指すべき理想のゴールを示したものであって戦略そのものではない。
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戦略的ビジョンはその作成の手順などにおいて戦略と共通する部分があるが、両者の決定的な違いは実現方
法(方策)を伴っているか否かである。
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両者がうまく連携を持ち、理想のゴールをビジョンが示し、その道程を戦略が示す関係になれば相乗効果が
発揮できる。
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中長期計画には実行戦略が含まれていることがあり、これも戦略の一部とするものもいるが、計画は実行の
一部であり定義から推しても実行は戦略ではないし、一般説としても実行を戦略には含めない。
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しかし、戦略と中長期計画は極めて密接な関係があり、内容の検証、確認は戦略にとっても大切である。
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