1. 製品・市場マトリックス分析 ※概要
1.1 構成
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製品市場マトリックス分析は市場セグメントと製品セグメントで構成され、そのセル(各セグメントの交
点に位置する罫線で囲まれた部分)には該当する市場規模を表した大きさの円と該当市場の成長の度合い
を表す矢印が描かれ、セル中の円はその市場におけるシェア構成を示す円グラフにもなっているマトリッ
クスである。図表49
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この分析よって市場の全体像を把握でき、市場、製品の選択をはじめ、何をすればどのような結果が期待
できるかを想起できる効果もあり、企業戦略立案に資する。それだけでなく具体策の発想につながるとこ
ろから、営業、マーケティング(場合によっては開発も)にも大きな貢献が見込める。
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※この製品市場マトリックス分析は1988年アライドコンサルティングプリンシパルの赤塔が開発したもので
ある。
※製品市場マトリックスはアンゾフの「企業戦略論」でプロダクトミックス選択の考え方の説明に使用された図
の名称でもある。
これと区別するために本書で紹介するツールの方を「製品市場マトリックス分析」と表現する。

1.2 効果
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製品市場マトリックス分析では以下のような内容の情報が直感的に把握できる。
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・自社は当該市場のどの製品セグメント、市場セグメントを手がけているのか
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・市場規模、伸びから見た自社の選択製品セグメント、市場セグメントは正しいか
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・競争相手はどの市場セグメント、製品セグメントで強いのか(自社が弱いのか)
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・競合の存在を前提とすると、選択製品セグメント、市場セグメントが適切なのか
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・自社の発展の軸とすべき(重点市場セグメント)はどの製品セグメント、市場セグメントなのか
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・市場全体が衰退傾向にある場合、生き残るための市場戦略、製品戦略はどのようなものか
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・ターゲティングパターン※や製品ミックスを変更すべきか、変更するならどのような選択が良いか
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参考:ターゲティングの基本的な選択パターンは図表51のように「フルカバレッジ」「市場特化(専門
化)」「製品特化(専門化)」「選択的特化」「単一セグメント集中」の5つがある。
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3. 作成上の留意点と手順
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この分析は互換性のある事業・製品を対象に、もしくは共通性の高い業界単位に作成されることを基
本とする。また、この分析の目的は個々の数値を細かく把握することでなく、全体の傾向や構造を把
握することであることに留意して作業を行う。
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製品市場マトリックス分析は必要なすべてのデータ(統計数値などの定量情報)が揃っていることは
少なく、(図表49の右下セルに記入されるような)統計データなどが存在することの多い大括りな
数値データやいずれかのセルのする市場調査資料などの数値データをもとに、残りのセルの値を推定
することによって作成されることが多い。
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従って、この市場に詳しい者が情報を持ち寄り、情報を交換しながら推定を行うことが必要となる。
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製品セグメントに関しては、対象事業に関連する統計が細分化した形で整備されている場合、その細
分類に倣ってセグメントを設定することで本分析の実施が容易になる。ただ、その細分類が分析目的
にそぐわないと考えられる場合は独自のセグメントを設定しなければならない。勿論、各セグメント
の数値などは推定することになる。
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右下の総合計セルの市場規模は統計などによって得られることが多いし、それらが無くとも市場調査
資料、協会、工業会など関係団体などの情報を元にすれば、推定することもそれほど難しいものでは
ない。
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次に製品合計欄に該当する右端セルの市場規模などを記入する。これに対応する細分統計が無くとも
製品毎の合計欄(右欄)を足し合わせたものが、右下の全体市場規模になることと、市場をよく知る
者の合議で推定するため、この数値も大きくはずれることはない。
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伸びに関しても同様に推察がし易いためこの段階で矢印を記入する。
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この市場セグメント毎の市場の大きさや伸びなどのデータや情報は存在することはあまり無いが、メ
ンバーの持ち寄る情報と、右下の総合計をよすがに推定を行う。
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市場合計欄のセルと同様、推定で作成することが多いが、市場の大きさと伸びが(右端、下段の)合
計欄の市場規模や伸びなどと矛盾が生じないように設定することが必要となる。
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マトリックスであるため、どこか1つでもセルの情報や数値が確定できれば、それを前提条件とする
ことで多くのセルの内容が決まることが多いため、いずれかの数値に確信が持てるならば全体の精度
が上がる。
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自社シェアは各セルの市場規模がすでに推定されているから、該当する自社売り上げ数値を組み合わ
せれば容易に推定できる。
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4. 解析例
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ポートフォリオなどでは典型的なパターンを挙げて説明することも可能であるが、この分析では、少しの
違いが大きな意味を持つため、その典型的パターの全部を示すことは難しく、以下にいくつかの参考とな
る解析例を紹介するにとどめる。
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ただし、以下に示した判断(解析結果)は製品市場マトリックス分析と当該事業の利益率情報だけに基づ
くものとする。
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A 自社の選択セグメント等が適当でないと判断される例
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■事業全体(右下の総合計)には伸びが認められる(矢印が右上がり)
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■主要な自社参入もしくは注力(選択)セグメントやセルのほとんどの伸びは横ばいまたはマイナス
である。
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■自社参入もしくは注力(選択)セグメントにおけるシェアは低いわけではない(総合計で見たシェ
アもそこそこである)
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▲当該(自社)事業の利益率がかなり低く、場合によってはマイナスにもなることがある
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事業の選択もしくは本事業の継続に問題はないが、セグメントの選択(ターゲティング)もし
くは、その選択セグメントでの(マーケティングの)ポジショニングや4Pの設定を間違えて
いる可能性が高い。
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もしセグメントを変える場合は伸びがある製品Fや市場2などを選択する。
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B 自社コスト競争力に問題があると判断される例
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■事業全体(右下の総合計)には伸びが認められる(矢印が右上がり)
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■主要な自社選択セグメント(セル)のほとんどの伸びは上向きである。
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■自社選択セグメントにおけるシェアは総じて見れば低いわけではない(総合計で見たシェアもそこそこ
である)
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▲当該(自社)事業の利益率がかなり低く、場合によってはマイナスにもなることがある
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事業の選択自体に問題はない。伸びのある(自社未参入、自社低シェアの)セグメント(F製品や2
市場)へ新たに参入することも悪い考えではないが、現選択セグメントのいくつかではシェアも高
く、しかも伸びが認められるため、これを放棄する必要はないので、まず現セグメントでの問題に対
応すべきである。
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すでにある程度の規模も伸びもある有望なセグメント市場に自社製品が受け入れられていることを考
えれば、機能性能や品質に問題はなく、問題は利益率だけに絞られる。
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このようなセグメントで継続的に利益率が悪く、しかも他社と比較してシェアが劣る場合は自社のコ
ストが異常であることを示す。
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このため、その原因を探りコスト低減を行わなくてはならない。
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C 自社製品力に問題があると判断される例
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■事業全体(右下の総合計)には伸びが認められる(矢印が右上がり)
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■主要な自社選択セグメント(セル)のほとんどの伸びは上向きである。
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■自社選択セグメントにおけるシェアも低く、全体でのシェアも低い
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▲当該(自社)事業の利益率がかなり低く、場合によってはマイナスにもなることがある
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▲競合他社の当該事業の利益率は自社ほど悪いわけではない
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事業自体は有望であるし、セグメントの選択にも大きな問題があるわけでもない。
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にも関わらず自社製品シェアが軒並み低く、当該事業の利益率も悪いとすれば、自社製品に対する市
場の評価(製品力)が低いと判断するほかない。
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この場合、製品の機能、品質、コストのいずれか、に問題があるかは不明であり、後述する製品力分
析を行い、その弱点を探さなくてはならない。勿論、その弱点が判明すればそれを是正することは勿
論であるが、それ以前にこの事業に対する研究開発によるサポートが不足していることも推察される
ため、研究開発の資源配分に関する分析も実施し、問題があれば是正することが望ましい。
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D (市場の)フルカバレッジに問題ありと判断される例
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■フルカバレッジ(ほとんどのセグメントを選択)をしている
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■多くのセグメントにおいてシェアが低い(3位以下がほとんど)
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■全体でのシェア(右下総合計セルでのシェア)が低い
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■事業全体(右下の総合計)の伸びはある(矢印が右上がり)
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▲最近の当該自社事業の利益率がマイナスか、かなり低い
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(すべてにおいてCと似ているが、市場選択においてフルカバレッジである点で異なる)
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Cの所見と同様の対応も導くことができるが、セグメント選択の基本にも着目すべきである。この場
合、フルカバレッジを選択しているが、これをやめ、いずれかのセグメントに特化することも検討す
べきである。
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特化には製品特化と市場特化もしくは(特定セルを選択する)セグメント特化の3つがあるが、製品
特化、市場特化、セグメント特化の順で検討するのが常道であるが、この場合少なくとも、小さな市
場(D製品、A3、C5セグメント)や伸びの低いセグメント(A4、B4、C1セグメント)など
は優先して検討するセグメントとなる。
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特化以外の選択肢としては、革新的な新型製品の先行開発や現製品と代替性のある次世代製品の開発
なども考えられるが、この選択肢が可能なのはそのような機会がある場合だけである。
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利益率がマイナスであると撤退も選択肢に入るが、全体(右下総合計セル)がある程度伸びている場
合は安易な撤退はすべきでない。
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