分析11(実験計画法、コンジョイント分析)

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1. 実験計画法(コンジョイント分析)の概要
実験計画法は工学的な実験で用いられることの多い手法であり、ある事象において、どの要素がどの程度
の影響を及ぼすかなどに関して、最も効率よく、しかも信頼性のある結果を得ることができる。
この実験計画法をマーケティングに取り込んだのが"コンジョイント分析"である。
これを用いることで、どの様な条件が揃えば製品が顧客ニーズに合致し、最も売れるものになるか、どの
ようなプロモーションが効果があるかなどを、最小限の労力で明らかにすることができる。
勿論、研究開発やマーケティングに限らず、社内の課題解決、社会の変化や嗜好変化の要因などの分析と
それらの仮説の検証にも活用できる。
 


本法の原理や実施に関しては詳しい書籍が存在するため、ここでの説明はその使用例をもとにした簡単な
使い方の紹介にとどめてある。




2. 実験例での説明
例えば、同一の塗料を使用して塗装をするときその美しさ(仕上がり)を決める要因は何かを実験で突き
止めたい場合、以下のような手順でおこなう。

@ 要因候補の想定(抽出)
まず、仕上がり具合に影響を及ぼす可能性のある要因もしくは検証をしたい要因を挙げる。
ここでは要因を仮にA「下地処理」、B「ペンキ濃度(薄め度合い)」、C「塗る方法」、D塗り重
ね回数、E「乾燥温度」、F「ペンキ温度」、G「仕上げ処理」とする。

A 条件の設定
それぞれの要因にかかる条件を決める(この条件を水準と呼ぶ)
A下地処理;有り(第1水準)、無し(第2水準)
B:ペンキ濃度;濃い(50%)(第1水準)、薄い(30%)(第2水準)
C:塗る方法:刷毛塗り(第1水準) 、スプレー塗り(第2水準)
D:塗り重ね回数;1回(第1水準)、 2回(第2水準)
E :乾燥温度:25度(第1水準)、70度(第2水準)
F:ペンキ温度;25度(第1水準)、35度(第2水準)
G:仕上げ処理:あり(第1水準)、なし(第2水準)
交互作用
それぞれ何らかの相乗効果があり要因の組み合わせにより単独の場合と異なる結果がでること
をその要因間に交互作用があるという。交互作用が想定される場合はA,B,などの表現に準
じてそれぞれの交互作用を
(A×B):A「下地処理」とB「ペンキ濃度」の交互作用
(C×D):C「塗り方」とD「塗り重ね回数」の交互作用
(B×F):B「ペンキ濃度」とF「ペンキ温度」の交互作用
と表記する。
※。

B 実験
・ 実験計画法を使用しない実験方法
他の要因を固定した上で、特定の一つの要因(候補)の条件(水準)を変化させて塗装し、仕
上がり具合を比較することで有効な要因とその影響の大きさの順位を決定する。
・・実験回数
交互作用がないとすれば、また、各要因のどちらの水準が優れているかだけが分か
れば良いとすれば1つの要因につき、2回実験を行う。7要因あるため、計14回
の実験で、この答えがでる。ただし、交互作用がある場合はさらに追加の実験を行
わなくてはならない。1つの交互作用につき、4回実験が必要であり、3つの交互
作用がある場合は計12回の実験が追加で必要となる。もし、極めてうまく組み合
わせができても最低6回は必要であるから、全部で20回〜26回の実験を行わな
くてはならない。もし要因毎の影響の差を明確にする必要がある場合や、仕上がり
に最も良い組み合わせ条件を明確にしようとすればもっと多くの実験数が必要にな
る。
・・実験結果と確かさ
この実験では水準の取り方、組み合わせによる優劣は判明するが、実験毎の差が極
端に大きい場合を除き、要因毎の優劣の判定につながらない場合もあり得る。ま
た、同様に誤差の大きさが分からないので、実験自体の信頼性が疑われることもあ
る。

・ 実験計画法で行う場合
・・実験回数と結果の確かさ
実験計画法で上記の実験を行う場合、相互作用を明らかにすることも含め、16回
の実験で、しかもその実験の誤差も含めた統計的処理で有意性(その要因が仕上が
りに影響するか否か)の判定やある条件で実施した場合の仕上がりの程度が確率を
伴った形で推定できるほか、要因の順位付けまで行うことが可能になる。

・・16回の実験の条件の設定
実験計画法を適用する場合、実験条件をうまく組み合わせることが必要となるが、
直交表と呼ばれる組み合わせ表を用いたいくつかのパターン(要因を点で、交互作
用を線で表した点・線図)が用意されているので、それに従って決めるだけで良
い。
上記のような、7つの要因と3つの交互作用が考えられる場合、直交表を用いて作
成された16回の実験は図表82のような条件で行われることになる。
この表における行は実験の番号であり、列は列毎に記載するそれぞれの要因の効果
を表すものである。つまり、1列は濃度の効果を算定するためのものであり、3列
は濃度と下地処理の交互作用の効果を明らかにするためのものということになる。
セルは該当する各条件の水準を示しているから、行全体でみればこのNo.の実験の
一連の条件を示していることになる。つまり図表83に示したように、No.1の実験
条件は下地処理:有り、濃度:濃い、塗り方:刷毛、塗り重ね:1回、乾燥温度:
25度、仕上げ:有りで行うということである。
また、何も割り付けられていない列(この表では6列、9列,11列,13列、1
4列)はこの実験の誤差を計測するために使用される。


 


 



このようにすると各水準を割り当てた実験の平均値の差がその要因の影響の大きさ
を示すものとなる。
例えば下地処理ならば、有りの1,2,3,4、9,10,11の平均値と無しの
5,6,7、813,14,15,16の平均値の差が下地処理の仕上がりに及ぼ
す効果の大きさとなる。
なぜならば、この有りと無しの実験の双方共に他の要因の水準および組み合わせが
同数になっていて、他の要因の影響が相殺されるため、下地処理の「有り」の実験
値と「無し」の実験値を単純に比べることでその効果の大きさが表されているから
である。
これが直交表を使うことの大きなメリットである。



 C結果とその処理
16回の実験結果が図表84の右端の実験値として得られたら、表の下段にある計算を行ってそれぞ
れの列に関して不偏分散※の値を出しておく。
※ 不偏分散はいくつかの測定値から全体のばらつき度合いを推定するための数値

 


※JからPは数値や数式を示す
※ 分散比は「測定誤差などでの変動」と「要因による変動」の比

この数値をもとに誤差を算出し、その誤差と各要因の分散比※を計算し、さらにその値とF分布表値
を対比(F検定※)することにより、塗装の仕上がりに有効な影響を及ぼす要因を決定(判定)する
ことができる。
※ 1水準の群と2水準の群の比較が成立するか否か(有意な差があるか否か)の検定方法(F検定の場合はそ
れぞれが等分布か否かで決める)
この際、誤差が重要な役割を果たすが、その計測数が少ないと精度が落ち、塗装の仕上がりに影響を
及ぼす条件(有意の要因)を見落とすことになるため、あまり有効でなかった、つまり仕上がりに影
響が認められなかった要因を、この時点で誤差と見なし、その数値を誤差に組み入れることで、再
度、精度の高い分散比を算出する。図表84の下段部分
このような操作で、精度の高い誤差が分かれば、それぞれの水準での結果も、その信頼区間を伴った
形で得られる。図表85
※ 信頼区間とはある確率でその範囲に収まることを意味するものである。例えば下地処理(B)に関し
て言えば、その仕上がり効果(値)はF検定で、危険率1%で有意
と判定されているから図表85の右図に示す矢印の範囲に99%の確率で現れることを示す。ペンキ温度
(F)など5%の危険率の場合はこの確率が95%となる。




 
例えば、濃いペンキを使用した場合は実験からその(仕上がり測定値の)平均値が771.875である
ことが分かるが、この条件で塗装を行った場合95%の確率で、つまりほぼ確実に70.635〜73.
115の仕上がり値が得られる。
また、最も優れた条件の組み合わせで塗装を実施すればどのような仕上がりの塗膜が得られるかを推
定することなども当然、可能となる。図表86





 

3 実験計画法(コンジョイント分析)の活用のすすめ
実験計画法の用語は統計学に由来するものがおおいため、とりつきにくく敬遠され勝ちであるが、日常で
行うほとんどの実験はそれほど大がかりでも複雑でもないから、表に従って簡単な四則演算だけを行え
ば、容易に結果が得られる。しかも、表計算ソフト(エクセル)を使えばこの処理も手間はほとんどかか
らない。是非活用すべきである。また操作が簡易なソフトも提供されている。



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