1. デシジョンツリー(意思決定のための分析)の概要と適用
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デシジョンツリーは意思決定に際し選択肢があり、いずれを選ぶべきかの決断において、それぞれの選択
をした場合に得られるであろう収益(予測値の)の比較をすることで答えを出すものである。したがって
デシジョンツリーとはいっても収益予測ができる場合にのみ有効に働くもので、全ての意思決定に適用で
きるわけではない。
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また、選択の根拠である予測収益自体がどのように行われるべきかの明確な内容は確定しておらず、その
結果が正しいかどうかが問題視される欠点もあるが、事象分岐という形で変動が織り込まれていることな
どを考えると、考え方としては興味深い分析である。
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デシジョンツリーの研究は米国の大学を中心に、現在なお進んでいるが、その進化によって複雑性を増
し、逆に、これを一般的な手法として使いこなすことが難しくなっている。
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そのようなこともあり、ここではプロトタイプのデシジョンツリーを紹介するにとどめる。
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2. 構成と原理
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デシジョンツリーは図表88のような分岐を持つツリー状の図を想定することから始まる。
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■で表した分岐は行動分岐と呼ばれ、自ら選択できる分岐を表す。一方、●で表した分岐は事象分岐と呼
ばれ、自らは選択できない不確実性をもった分岐である。つまり、どちらが起こるか分からないことを示
す分岐ということである。
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このような分岐で構成されたツリーの最後の枝部分について(その条件をふまえて)収益予測を行い、こ
の収益値を順次、左方に遡らせる操作を行うことによって、一番はじめの選択肢でのトータル収益を想定
し、この数値の比較を以てどちらを選択するべきかの判断を行う。
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3. 分析例
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B.最初は小規模な投資(50億円)をし、その後に追加投資(40億円)をする選択
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(翌年以降の設備費は安くなり、40億円の投資で初期投資の50億円に匹敵する内容の投資が可能となる
想定。従って、最終的な実質事業規模は同じ)
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このいずれを選択すべきかの事案をもとに本分析の実施方法を説明することとする。
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@ 最初の投資額を大規模にするか小規模にするかが選択できるので、ここに分岐点を設ける。これ
は自ら選択できる分岐であるから行動分岐(■)である。
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A 投資段階では事業開始時点での景気が好況か不況かは不明であり、そのいずれかによって得られ
る利益が変わるので、行動分岐の枝の先に好況となるか、不況になるかの分岐を設ける。これは自ら
選択できる訳ではないので、事象分岐(●)である。
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B 事象分岐(●)に関してはその枝分かれがどの程度の確率で実現するかを想定し、これを記入し
ておく。例となる事案では、好況である確率20%、不況である確率80%と想定する。
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C この段階で、合計4本の枝ができるが、事業を実施すれば利益が出るからそれぞれの状況に応じ
た予測利益額をその枝上に記入しておく。(事象分岐毎の利益予測)
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事案例での利益額は上から13億円/年(大型投資、好況)、8億円/年(大型投資、不況)、6.
5億円/年(小型投資、好況)、4億円/年(小型投資、好況)と想定する。
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D 小規模投資の場合追加投資をする場合があるとし、小規模投資の分岐の先にさらに行動分岐
(■)を設ける。この分岐には追加投資がある枝に関してはその投資額(20億円)を記入してお
く。
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E 次の年には景気が変動する可能性があると判断し、(小規模投資、大規模投資にかかわらず)そ
れぞれの枝に景気に関する事象分岐(●)を設ける。この際の好況となる確率は60%、不況の確率
は40%とする。
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F 2年目も1年目と同様に予測利益額をその枝上に記入しておく。
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このような操作を想定すると図表89の様なツリーが作成できる。
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ツリーが作成できれば次にそれぞれの(分岐前の)利益計算を行う
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事象分岐前の利益はいずれが起こるか不明であるため、両選択肢の期待値で表す。事象分岐F
は2つの枝があり、それぞれ起こる確率と生じるであろう利益が記載されている。従ってF前
(に記入される)利益は
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F前の(期待値での)利益=ケース1の利益×ケース1の確率+ケース2の利益×ケース2の
確率で算出できる。
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実際の数値を当てはめれば、F前の利益=13億×0.4+8億×0.6となるから10億と算
出される。
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行動分岐前の利益はいずれかを選択できるのであるから、当然、利益の大きい方を選択する。
従ってその行動分岐前に示す利益は大きい利益のでる選択肢の額となる。ただし、投資がある
場合はそれを差し引いた額を用いる。従ってこの場合H前の利益は5億で、I前の利益は10億
であるが、投資を差し引くと、I前利益は−30億(10億−40億)、一方、H前の利益は
5億となり、D前に記載する利益額は大きい方の5億となる。
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B 上記までの利益の計算は2年目の利益を算出したものであるから、これに1年目の利益を
加算して、合計利益を算出する。この合計利益と確率を用いて事象分岐B前利益とC前利益
(期待値)を算出する。
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そこから、それぞれの投資額を差し引いた額が、A(■)の行動分岐のそれぞれの枝(選択)
で得られる利益となる。
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この結果、図表90のように大規模投資の場合利益は−81.2億円、小規模投資の場合は−40.
5億円となるから、この条件であれば、小規模投資を選択するのが正しいという判断になる。
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※この例では事業実施期間(予測期間)を2年にしたため、投資を差し引くとマイナスになっているが、実際の
事業はもっと長く続くのが普通であるから当然、結果は変わって来る。
4. デシジョンツリーと確率リスク分析
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事象分岐を多用すれば多くの変動要因を織り込めるため利益予測値の正確性を高めることができる
が、事象分岐だけでなく行動分岐をも組み合わせることもあって、全体でその分岐の枝は極めて多く
なり、計算も煩雑になり大型計算システムが必要となる。そのため企業が実務的に活用することは難
しくなる。また、多くの事象分岐の組み合わせの仕方によって結果は大きく変わるが、それらを論理
的、合理的に設定することは極めて難しい。
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しかも事分岐をいくつも組み合わせると確率的にほとんど起こらないケースが生じる。
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デシジョンツリーでは、それらほとんど起こらないケースの収益をも最初の分岐にまで遡らせる操作
をして収益を想定し、意思決定をするため、例え小さな確率であってもそれらが積もりつもって、鍵
となる(最初の選択肢の)予測収益に現実的でない解を与えることが起こり得る。これが致命的な欠
陥である。
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確率リスク分析はデシジョンツリーの言うある事象での収益予測を行うツールであるのに対し、デシ
ジョンツリーは意思決定選択肢のいずれを選ぶべきかの示唆を行うもので目的が異なる。
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確率リスク分析は前提条件を固定し、1つの事象分岐に適用するものであるのに対し、デシジョンツ
リーは複数の事象分岐と行動分岐をも対象とするところに違いがある。
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確率リスク分析収益予測をその発生確率とともに導き出し、数値には加工せず意思決定の資料とする
のに対し、デシジョンツリーは複数の事象分岐と行動分岐を含めた収益予測を期待値という形でまと
めて一つの数値として示す。
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