1.企業戦略と研究開発
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研究開発は企業機能としては若い機能であることもあり、その位置づけや運営方法は試行錯誤を繰り返し
てきた。技術と企業の説明で述べたように企業のどの要素技術を強化するかは重要であるが。その強化を
担う機能が"研究開発"である。
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企業には様々な事業や製品があるし、様々な機能があるが"どの事業、製品" "どの機能"を強化するかで企
業の将来の姿も収益も発展性も大きく変わる。
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この強化は資金、人、設備などの資源の投入(資源配分)によっても行えるが、技術の強化を介しておこ
なうこともできる。
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このようなことを踏まえ改めて企業の研究開発を定義するなら "研究開発は技術を介して、機能、事
業、製品を強化・支援する機能である" と言ってよい。
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いずれにしても研究開発の使い方次第で、企業の競争力が大きく変わるし、企業の将来の姿さえも変わる
ことは間違いない。
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その意味で研究開発が戦略(描く構想や方策)に大いに関係するし、その内容を考えれば研究開発テーマ
は戦略における実行戦略そのものであることも理解できるであろう。
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2.研究と開発の区分
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企業における研究、開発はともに同じ働き(機能)をするが、両者には対象特性において違いがあり、そ
の扱い(管理方法)も多少異なる。
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研究と開発の基本的な違いは目標の具体性、明確性と目標達成の不確かさの度合いにある。
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開発は目標の具体性が高く、開発に着手する時点での不確かさが少ない。
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研究は概ねこの逆である。かつては基礎研究から応用研究へ発展し、開発がその次工程として位置すると
する説明が一般的であった。この説明のように研究から開発へつながるものがあることは否定するもので
はないが、基本的に研究と開発は時系列的にも内容的にも別ものである。
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管理においても研究と開発は異なるものと見る方が良い。
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開発は目標が明確で、場合によってはその目標である製品等や技術は既に経営パフォーマンス(売上げ、
利益など)に組み入れられているものも少なくない。
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従って、その納期(完成時期)を含めた仕様通りの完成が重要であるから組織的、計画的に目標に向かっ
て進められなくてはならないが、研究においては目標自体が曖昧であると同時に目標の達成に関しても厳
格でない。(厳格でないとは目標の許容範囲が広いことを言っているのであって、進展がないことを許容
する意味ではない)要するに内容は当初の目標通りでなくても有用なものが得られるか否かが評価の基準
となるということである。
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研究の進捗とともに目標や手段を変えることも検討されて良いし、目的の変更さえ許容される。
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従って、研究の管理はある程度の成果の得られた(成果が得られない場合も)節目節目で、研究自体の
GO,STOPを含め、目標、目的を見直すことができるようにするのが良い。(ステージアプローチ)
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開発にもステージアプローチは有用であるが、目的、目標は市場のニーズ等が元になっていることが多い
ため、それを大きく変えることはあまりなくGO,STOPの判断をすることが主体となる。
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このようなことから研究と開発では進め方の管理が自ずと変わって来るのである。
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3.経営目的から見た研究開発の把握
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研究開発は企業の技術を介して機能や事業を支援、強化する機能であるが、資源制約もあって全ての技
術、機能を均等に支援、強化できる訳ではない。また、すべての対象(事業製品、機能)を均等に支援、
強化することなどは極めて不効率であるだけでなく、事実上不可能である。
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強化支援対象やその強度は経営の立場から戦略として決めなくてはならないが、その前提として研究開発
の全体がどのようになっているかの把握が必要である。
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しかし、専門的な内容である研究開発テーマはわかりにくいため、これを実質的に放棄している経営者、
企業も少なくない。
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研究開発の側に立ってテーマなどを見るとわかりにくいため経営の側に立って研究開発の内容をみれば理
解は容易である。この経営の立場から見る分析手法が技術戦略グリッドである。
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経営の立場から研究開発テーマを分類すれは以下のような8つのいずれかに区分できる。
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A 新型製品の開発、B 営業サポート、C 生産サポート、D 事業体質強化、E 新規事業開発、F
技術革新対応、G 次世代製品開発、H 技術領域拡大
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またどの事業製品に寄与するかがわかれば経営と直結した形で理解ができるため、SBU毎にテーマを整
理ことも有用である。
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この両者でマトリックスを形成しセルの中に該当する研究開発テーマ、それに投入される資源量などを記
載したものが、技術戦略グリッド分析である。
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この分析によって、どの事業(SBU)においてどのようなテーマで経営として何を目指しているかなど
の理解は勿論、研究開発の全体像が把握できるようになる。
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4.研究所の位置づけ
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研究開発は技術(の強化)を通して様々な部門、部署、事業、製品等の支援、強化する機能で、これを使
うことで競争優位の獲得や収益向上ができる。そのため理想を言えば各部署、各部門もしくは各事業、製
品、機能ごとに研究開発機能が存在することが望ましい。
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しかし研究開発を行うためには工学や理学の素養のある優秀な人材が必要で、その人材には限りがある。
また、研究開発の実施には専門的な機器や様々な材料等が必要である。しかも研究開発の管理は一般業務
とは異なる面も多々ある。
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このようなことから研究開発にかかわる人々を集め、ツールを共有し、最適な運営を行えるようにして効
率を上げ、実質的に研究開発者の流動性をも確保したのが研究所である。
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にもかかわらず、その専門性と本社、事業部などとの物理的、専門的距離が原因で経営者とも受益者であ
る関係各部門、部署とも疎遠になり勝ちである。
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しかも、実施内容が深く戦略と関わるにもかかわらず戦略においては独立したセンターとして扱われるこ
とが多く、その点でも大きな問題を生じる。
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研究開発が戦略の要であるとすれば "研究開発テーマは研究所やその受益者である各部門だけで設定して
はならず、企業戦略に組み込んだ形で、全体最適を意識して行わなくてはならない"ということである。ま
た、研究所の所長もしくはそれに準じるものは戦略立案にも寄与しなくてはならない。
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研究所の所長も事業部長等と同じく、企業戦略の立案の補佐者としてこれに参加し積極的に関与しなくて
はならない。
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したがって研究所長やそのスタッフは研究開発に精通しているだけでなく戦略的知見を持ち、企業全体の
立場から判断できる見識も備えていなければならない。
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この様な資質が必要であることを考えれば、古い企業に見られる"研究開発での功労だけをもって研究開発
所長を決める"などという人事はすべきでない。
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5.研究開発の人的資源と流動性の重要性
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研究開発が戦略的役割を果たすもので、研究開発テーマが実行戦略であるならば、研究開発者は戦略に沿
った研究開発テーマに適宜取り組むことが要求される。つまり研究開発者は取り組む対象においてダイナ
ミックでなければならないということである。しかし、多くの企業で研究開発者を固定化された専門分野
に貼り付けていることが多い。そのような固定化は戦略経営に障害となり企業全体の効率を下げる。
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研究開発者の能力を伸ばし成果を上げるためにも研究開発者の守備範囲を拡げることも大切である。行き
過ぎた専門主義は戦略経営の障害になるばかりか、結果として個々の研究開発者の能力を低下させる原因
となる。
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6.研究開発テーマの評価、設定方法
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テーマの設定方法に関しては理論が十分発達しておらず、それぞれの企業が独自の基準を設けて評価を行
っていることが多い。
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その場合、企業戦略、事業戦略が直接要請するいくつかの研究開発テーマを除けば、戦略との関係は間接
的にしか考慮されない。
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戦略の核となるべき研究開発テーマが戦略と乖離する原因はここにもある。
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しかもテーマ相互の相対的な評価が難しいため、絶対的な価値を中心に評価されることがく、明確な優先
順位づけや適切な資源配分も行えない現象が起きる。
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いくつかの企業ではこの問題に対処するためにテーマポートフォリオや技術戦略グリッドを用いている
が、後述するように、本来、両者とも現状把握を目的とするためのものであり、戦略の反映した選択や優
先順位付け、資源配分などを行うには荷が重い。
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研究開発テーマのような異種のものを比較し、その中から適切なものを選択しようとするならば、意思や
考え方などを介入させる必要がある。
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研究開発の果たす機能、役割から考えて、そこに介入する意思や考え方は(企業)戦略でなくてはならな
い。
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統合戦略は、研究開発テーマ(案)を実行戦略として扱うことにより、戦略という経営意思を介入させ評
価、選定するが、このような処理を行うことで、大きな成果を上げることが可能となる。
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