戦略定石(戦略発想のヒント、セオリー)
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戦略は多くの情報とその判断、認識および個人の知見、経験等を集約した上で、立案されるが、企業戦略は自由
度が高く、いわば条件の不足した多変数の方程式と同じであるから、論理的に解を導き出すことは難しい。
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従って、仮説、検証を繰り返し行ったりするのが普通であるが、その仮説作成さえもなかなか難しい。
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仮説を作るよりどころや発想に際しての足がかりとして様々な経験の積み重ねでもたらされた戦略定石やセオリ
ーが役立つことも多い。
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戦略は情報、分析結果、ポリシーなどすべてを集約した経営(者)の意思と思考によるものである。有力な分析
手法がもたらす結果や定石やトレンディなコンセプトなどとの峻別は難しいが、それらはあくまでもヒントを与
えるものであって、盲目的にそれに従うようなことがあってはならない。その意味を込めてここでは(後に紹介
するISS独自の分析手法やポートフォリオなど汎用性のある基本的分析とは別に)有名な定石や分析を挙げて
おく。
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自社の事業、製品等に強力なライバルとなる可能性のある新事業や新製品等が出現した場合、これと競争し
て勝利を得るよりもいち早くそれらを自社に取り込み自社事業・製品とし、いずれの事業・製品を選ぶかは
市場にまかせるべきであるというのが"ライバルは取り込め"の意味である。
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例を挙げるならPCとタブレット、サービスの例としては飛行機と鉄道などである。
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ライバルか否かの判断は事業者の立場でなく市場の立場で見るのが妥当である。例えば、女性の装飾品とエ
ステティックサービスは何ら関係がないと思われるが、消費者にとっていずれも満足感や優越感を得ること
が大きな割合を占めるという説もあり、業態次第では競合と考える場合もある。
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また、ライバルが成長して自社事業、製品を脅かすようになってからでは取り込むのは難しい。従って、こ
れを取り込むのは早いほうが良い。
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新しい製品やサービスは突然現れるものでなく、種があり芽があるものであるから、その段階をウオッチし
ておけば早期に取り込むことが可能になる。
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このような戦略定石を知っていながら、ライバル事業や製品に脅かされる結果を招く企業経営者は情報が乏
しいか、考え方が間違っているかのいずれかである。
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順位の戦略とは市場シェアの順位に応じて採るべき戦略が決まるとするものである。
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ただし、これが適用される市場シェア構成は1位50%、3位30%、3位10%、その他10%程度で、
その順位も比較的安定している事業で頻繁な変動がないことを前提としている。
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一位の事業者の競争戦略上の最大の目的はその地位の確保となる。
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もし、一点突破されれば、そこから綻びが生じ、それが拡大し、一位の座を失うおそれがあるが、下
位の事業者がどの部分で攻勢をかけてくるかは不明であるから、全てにぬかりがあってはならない。
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そのため、王者でありながら常に他社の動向と市場の動向を見守り、伸びそうな新製品などに関して
はそれを越えるものを素早く開発し、他社に対抗する必要がある。
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しかし、現制度、現システム下での王座であることもあり、急激な抜本的改革は命取りになりかねな
い。したがって守るべきものと進化、変化しなくてはならないものの峻別が肝要となる。
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そのような難しい立場ではあるが、その立場であるからこその策も多々ある。
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また、収益的発展を望むならばこの地位を活かした市場全体の拡大を行うのが最も効率的で良策であ
る。その具体策としては「ユーザー一人あたりの使用量の増加」「従来製品の新しい用途の開拓」
「未だ関係の無い需要者層への浸透」などがある。
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2位の事業者は1位の事業者との差を開かせないことが最低限の課題であり、差を縮めることが競争
上の最大の命題となる。このためには目標も目線も1位に向いていることが要求される。3位以下の
動向も気にする必要はあるが、1位を見ていればこれも自ずと知ることができると割り切るぐらいで
良い。
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2位の地位は1位の事業者と同様、現制度、現システムに支えられているため、積極的に大きな革新
を仕掛けるのはリスクが大きすぎる。
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従って、2位の事業者にとってはこれを行うためのマーケティング能力と開発能力は地位を保全する
生命線であり、他の順位の事業者よりもそれらを重視するのが正解である。
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下位の事業者からの脅威がある場合はそれらの追随が難しい方法で、これらに対応する。資金力の差
がある場合は資金で、コスト競争力が明白に勝っている場合にはコストで、しかも徹底して実施す
る。
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3位の事業者の競争すべき相手は上位の事業者ではなく市場もしくは業界である。その有力な方法は
1点突破と事業構造や市場価値観の革新である。
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2位事業者の多くは1位事業者の模倣者、追随者であり3位事業者からみれば同じであるため、これ
らと競争することになるが、それらの合計シェアを考えれば地道な努力だけでこれらに追いつき追い
越すのは難しい。
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特定製品、特定市場もしくはその両方を組み合わた特定セグメントで1位の地位を確立すれば、そこ
で得た高評価や実績は他のセグメントでも評価される。このように一点突破すれば強固な上位の壁を
崩す可能性が高くなる。
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また、土俵そのものを変える改革、革新を仕掛けることで上位2者をしのぐ機会を創り出すことがで
きる。ここで言う土俵とは、技術、流通システム、生産方式、市場・顧客の価値観、売り方、購買調
達方法などすべてに及ぶ。ただし、その改革、革新は斬新で大きなものでなくてはならない。
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ターゲットを的確に定め、その成果を踏まえた構想を描くことは、まさに戦略であり、3位の事業者
が発展するために最も求められるのは戦略力であると言える。
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3位の事業者は上位の事業者に比べ、そのチャレンジで失うものが少ないという利点もある。
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3位事業者はもともとロイヤリティの高い顧客に支えられていたり、業界の当り前から乖離している
ことを選好されて存在することも多いので、財務的に耐えられるならば、集中的な改革、革新が失敗
しても大きな問題に発展する可能性は比較的低い。
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スーパードライで市場を革新し現在の地位を作り上げたアサヒビールはこの好例である。
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3.優位者の戦術と劣位者の戦術(ランチェスターセオリー)
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ランチェスターセオリーとはF・ランチェスターが数学的アプローチ(OR)を活用して砲撃戦における予
測を行った結果をもとにして作られたセオリーである。
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相手の存在地域の分からない場合、「双方が同等に撃ち合えば戦力(兵員数×兵器性能)の勝る方が勝利
し、勝利者の損害の大きさは負けた方の戦力損害とほぼ同じとなること」が、相手の所在などが分かってい
る場合は「兵員数の効果が大きく現れ、勝利側と敗北側の残存戦力の差は2乗に拡大すること」などが明ら
かにされた。
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この成果は第2次世界大戦の戦闘機での空中局地戦にも忠実に応用され、そのおかげでイギリスが制空権を
かろうじて確保し、そのことが連合国側の勝因の一つになったとも言われている。その意味で、歴史を変え
た理論とも言える。
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この成果を踏まえてマーケティング、営業におけるセオリーを導き出したものが「経営におけるランチェス
ターセオリー」である。
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簡潔に言えば、情報の重要性を前提とするが、戦力で劣る事業者は全面戦争を挑まず、局地戦、一点突破、
差別化、陽動作戦を活用すべきであり、逆に戦力において優勢な事業者は一点突破や差別化には早期に全力
で対応し、できる限り総合戦、広域戦、消耗戦に持ち込むべきであるとするものである。
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ランチェスターセオリーは局地戦において最も効果を発揮するため、マーケティングや営業業務に適用され
ることが多いが、全体の戦略を立案する際にも大いに示唆を与える。
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強みの優先とは強みを活かす戦略を採用するか、弱みを補うことを柱とする戦略とすべきかを迷う場合、強
みを活かす方を優先すべきとするものである。ただし、弱みが競合に比較して極端に劣る場合や市場に受け
入れられないほどの弱みである場合はこの限りではない。
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企業には強みも弱みも常に存在するが、バランス感覚の良い日本人経営者は得てしてその両方を追究しよう
とすることが多いが、あぶはち取らずになりやすい。
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富士重工業(スバル)の自動車のシェアはかなり低いが堅実に利益を確保している。かつては内装やデザイ
ンが貧弱とか燃費の向上に不熱心などと言った評判があり、それらが弱みであると考えられて来たが、それ
らにはお構いなく、かつて飛行機メーカーであった技術的強みを活かし、水平対抗エンジンの特性を伸ばす
ことで独自の自動車を作り上げ、世界でも高評価を受け生き残っている。強みを伸ばして成功した例であ
る。
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大場とは目前の大きな収益や極めて近い将来の収益可能性であり、急場とは緊急性である。戦略立案では一
般に"大場より急場"の施策を優先すべきとの考え方で使われる。
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勿論、目前にある大きな収益を捨て去ってよいわけはなく、そのバランスの在り方が大事ではあるが、急場
の認識が十分にできないことが問題である。
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急場施策を言い換えれば"事業の存続に関わる緊急を要する施策"であるが、これだけでなく"今しかできな
い、今が好機の施策"も急場施策である。これがこの定石のポイントである。
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前者は比較的わかりやすいが、後者の認識はなかなか難しい。
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戦略立案に際して"今しかできない、今が好機"ことを見出し、それを前提にすることで優れた戦略を立案す
ることが容易になることも多い。
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日本マクドナルドは2014年に中国の食材仕入れ先の不祥事で大きくブランドを傷つけ顧客離れを引き起
こし史上初の営業赤字を計上し、今後も苦戦が予想される。これは"急場"を認識できなかった、もしくはあ
えて現収益(大場)を優先した結果と言って良い。
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「集中と選択」は1980年代にGEのCEOであったJ・ウエルチが多々ある事業のうち、シェアの大きな
事業、もしくは優位性が明確な事業だけに注力し、それ以外の弱小事業は売却して企業としての業績(パフ
ォーマンス)を飛躍的に向上させたことに始まる。
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この実績を踏まえて、C.K. Prahalad、 Gary Hamelがコアコンピタンスという概念を著したことで「選択
と集中」は一層浸透することになった。
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それ以前には多角化が指向された時代もあったため、コアコンピタンスの考え方に基づき多くの企業が本業
回帰を果たし、それなりの効果を上げた。
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この「選択と集中」は戦略理論にもフィードバックされ大きな影響を与えた。最近の生き残った新戦略コン
セプトの一つで、すでに戦略発想の定石としても確たる地位を占めている。
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しかし、その一方、盲目的にこれを実践することで弊害も見られるようになっている。
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集中と選択が徹底されると、現事業以外に目が向けられず、結果として新規領域への進出が妨げられ発展拡
大が阻害される現象が生じたのである。
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この弊害に対処するために、様々な角度からの評価を行って、強みを発掘し、または意図して強みを造り上
げ、それに基づく事業集中と新規事業展開を同時に行うことが提唱されるようになった。
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それがGeorge Stalk Competing on Capabilities 、George Stalkらが提唱する"ケイパビリティ(能
力、才能)による競争"である。
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ケイパビリティを核とし、相乗効果を頼りに拡大する経営とコアコンピタンスを核とする集中のいずれが適
切かはその時代の状況(環境)によるところが大きく、これに関しては絶対的に正しい経営は存在しない。
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事業にも製品にもライフがあり、それを時系列の需要との関係で表せば図表28のごとくなる。このことは
今や周知の事実となっている。
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図表28の時間軸やカーブの形状が示す時期にはいくつかの区分名が記載されているが、自社事業がどの位
置にあるかによって主要な施策、採るべき施策は大いに変わってくる。
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これらについてはポートフォリオでの説明と重複するため、説明はそちらに譲る。
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ただ、ライフサイクルに関してはいくつかバラエティが有るし、もう少し複雑な現象があり、戦略立案者は
それらを知っておくことが必要である。
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その1つは新型製品や代替次世代製品によるライフの再生である。
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魅力的な新型製品や代替次世代製品の場合は、その事業・製品の需要者側の認知が進んでいるため、全く最
初からライフサイクル曲線を描くのではなく、図にあるように成長期あたりからリスタートするようになる
ことが多い。また、買い換え需要の有る製品では、新型製品等の魅力が小さくとも、これに加え旧製品の需
要を加えてカウントするため、曲線としては再生しているように見えることがある。
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代替次世代製品の出現も同じように再生現象を示すが、次世代製品の革新性が大きければ旧世代製品は消滅
し、全く新たなライフサイクル曲線を描く。
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ただし、革新性がある代替次世代製品は旧世代製品で需要のあることが確認されていることなどもあり、新
規参入者にはこの上ない機会となるから、旧世代製品を手がけている事業者は安閑とはしていられない。こ
の点で単なる新型製品の場合と大きく異なる。
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ライフが衰退期に達したときには多くの企業はその事業製品から撤退するが、そこで我慢をして他社の放棄
したシェアを集め、自社シェアを高めその効果で収益を改善、向上させる施策も時に選択される。(残り物
戦略)
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8.競合収益分布パターンと競争手段の選択(アドバンテージマトリックス)
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収益性(利益率)と事業規模のマトリックスは業界における自社のポジションを把握するための分析として
普遍的に使われているが、タイプ別に戦略オプションがあることはボストンコンサルティンググループによ
ってみいだされたもので、ポジション分析とは別物としてアドバンテージマトリックスと呼ばれる。
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これはパターンによって、戦略変数(手段バラエティ)と優位性構築の可能性が異なることと、有効な競争
手段が異なることを明らかにしたものである。
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パターンは4つに大別されているが、細分すればもっと沢山できるし、自事業の属する業界がどのタイプに
属するかを判別することが難しいなど、多くの問題が残されており、定石として挙げるべきか否かは疑問が
あるが、基本的な考え方には合理性があり、この分析がもたらす情報が戦略立案の発想の助けになる可能性
があることは間違いない。
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典型的な4つのパターンとして挙げられているのは「分散事業(タイプ)」「特化事業(タイプ)」「規模
事業(タイプ)」「手詰まり事業(タイプ)」で、タイプ毎の事業、業界の特徴と採るべき方策はそれぞれ
以下のようになる。
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・「特化事業(タイプ)」(戦略変数と優位性構築の可能性双方が高い)
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プロットが集中する規模も利益率も似通った企業(事業)が多いタイプである。しかし、このタイプ
の事業の場合、同じような収益特性の企業であっても方向性はそれぞれ異なることが多い。
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共通して言えるのは、それぞれの特化市場の深耕もしくはそれぞれの持つ特異技術を先進化させるこ
とで、利益の向上と安定化を図っていることである。(ブランド力を高め、利益率を向上させること
も含む)
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つまり、このタイプの事業には独自の強みを持つ企業が多いということでもある。
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ただし、このような事業では技術革新が突然現れ、それがすべてを飲み込んでしまうリスクが高いた
め、自社の特異技術や先進化した技術を核とした(自社の資源を活用した)第3の事業を常に模索し
ておく必要がある。また、それぞれの企業の独自性が強く、相互に競合することが少ないため、業界
の中で連携を強め、ともに市場を拡大し、安定を図ることも可能である。
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・「分散事業(タイプ)」(戦略変数が高く優位性構築の可能性が低い)
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規模と利益率にあまり相関がなく広い範囲にプロットが分散するタイプである。他タイプに比べると
個々の事業者の状況や考え方は多様で、共通の戦略は存在しない傾向がある。
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ただ、市場が比較的大きく、しかも、多様性が許容されることが推測されるため、個々の特徴を技術
化できる企業はそれを武器にフランチャイズなどを行うことにより収益性(利益、売り上げの両方)
を高められる余地が大きい。
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また、大規模化させることで収益性をあげることも可能であり、一般的には買収、合併等による規模
の拡大で収益を押し上げるように動くのが有力な戦略オプションとなる。
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一方、その狭間を突いてニッチ戦略に徹し高利益を追求することも可能であるが、その場合は規模の
脅威にさらされないように徹底したニッチを指向しなくてはならない。
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このタイプの事業では収益の悪い事業者は他事業者の成功例から学ぶことが多く、トレース戦略も有
効である。
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・「規模事業(タイプ)」(戦略変数が低く優位性構築の可能性が高い)
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右肩上がりのプロット分布となり、規模が大きいほど利益率が向上するタイプである。従って、大規
模事業者はより規模を拡大し、規模からもたらされる様々なスケールメリットやバーゲニングパワー
を最大限に活用した収益向上を行うのが良い。
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また、資金力を活かして川上へ遡及すること、資源を研究開発に投入することで、他の追随を許さな
い品質、性能を実現し、地位を安定させることも有力方策となる。
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このタイプの事業では小規模事業者には活路が少ないが、高機能化、精密化などにより高収益化が可
能であるし、ニッチ戦略を採ることもできないわけではない。(特化事業への変身)
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・「手詰まり事業(タイプ)」(戦略変数も低く、優位性構築の可能性も低い)
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プロットが低位に分散しており規模と利益率に相関がない。この場合、大規模事業者は自社効率を高
めることで生き残りをはかるのが常道であるが、その他、財務、提携なども視野に入れたあらゆる方
法を用いて利益率を上げなければならない。
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小規模の事業者は体力的に難しいが、可能であれば、高級化などで特定市場に活路を見いだすことが
唯一の生き残り策である。(特化事業化)
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このパターンの事業者は新規事業を用意することが必須であり、そこに社運を賭けるのも仕方のない
選択である。
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アドバンテージマトリックスはできるだけ多くの事業者のデータを収集し判別をする必要があるし、
そのパターンが典型的な形を示す場合のみに有効である。
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売れるものを売るという原則はどのような事業、製品にも適用できる。
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"売れるものを売る"は売れるものを選択し、重点化することから始まるが、それでもなお思わしくない場合
は場所(相手)を選び、時期を選び売れるようにする。本来「売れるもの」は売方次第で必ず売れるという
ことであるし、そこに懸けるのが最上の戦略オプションである。
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最近はこの売れ筋の真逆を行く「ロングテール」を良しとする風潮もあるが、これはあ
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くまでも売れ筋が基本で、皆が売れ筋を指向しているからこそ成立するものである。
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ポーターの競争戦略を引き合いに出すまでもなくビジネスにおいて競争に勝つことは重要である。しかし、
目的は競争に勝つことでなく、市場や顧客により受け入れられることである。競合に勝つか負けるかは結果
であって、企業や事業の直接の目的にすべきではない。
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極端なことを言えば、企業戦略立案にあたっては競合の細かな動きなどを小賢しく意識せず、市場だけを見
ていれば十分である。競合の動静を知ることは必要であるが、その動静も市場の動きを反映する鏡に過ぎな
いと割り切るぐらいで丁度良い。
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真の競争相手は市場であり顧客であることを理解し、意識することが企業戦略立案の基本であり定石であ
る。ただし自由度の低い戦略では競争に勝つことの意味は大きくなるため、個々に力を入れることもあって
よい。
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"時の勢い"とはその時期の社会潮流や価値観を含む社会環境の変化のベクトルで、その勢いにおいても、ま
た影響範囲においても大きいものを指す。一部の変化や緩慢な変化などはこれの対象外であり、まして、一
時的な流行などとは異なる。
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"時の勢い"は市場のニーズ、ウオンツを生むだけでなく、この流れの中にはそれに対処する手段も包含され
ていることもある。また、この流れに沿ったものは市場が受け入れやすい。
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それだけに、これを正確につかめば大きな効果を発揮する可能性がある。戦略立案に関わる者はすべから
く、この時の勢いを察知できるように努力するべきである。
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また"時の勢い"に似た言葉に"天の時"がある。根本の意味は異なるが、これもまた戦略立案には重要な要素
となる。流行に流された軽薄な経営や戦略はあまり尊敬されないが、もし、その流行が時の勢いや天の時の
一端ならば、それに乗るのもそれほど悪い試みでもない。
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PIMS(Profit Impact of Market Strategy:市場戦略による利益効果)は、GEが中心になり1960年か
ら1975年にかけ行った研究テーマの名称、略称である。シェアや品質が利益といかに関係するかなどを
主に解明するもので、この研究は多数の企業が参加して行われた。
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@ 絶対的なシェアも相対的なシェアも資本収益率(ROI)と密接な関係にがあり、一般的には高
いシェアの企業ほどスケールメリットや経験効果が働き、市場での影響力が強く、収益性が高くな
る。(製品・事業や市場の特性によっては多少異なるパターンも出現する※)
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A 製品の品質は市場のリーダーシップを確立する重要な要素である。
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B シェアの高い企業ほど高価格で売ることが可能となり、製品利益率も高いし、販売のマージンも
多く得られる。
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C ROI(投資利益率)と市場成長率は正の相関関係にある。
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D 垂直統合は製品ライフサイクルの後半期に有利となる。ただし、収益で見る限り部分統合など中
途半端な垂直統合は避けたほうが良い。また、川下との統合より川上との統合のほうが収益性は高
い。
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6 投資を集中させたり、在庫水準を高くするとROIは低下する。
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F 資本集約的な企業(事業)ではROIに稼働率が大きく影響する。その影響も、シェアの小さい企
業ほど大きくあらわれる。
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※ 図表24 のAのように一般的にはシェアが大きいほど利益率が大きいが、Bのようにシェ
アが大きくなっても、あるポイントまでは利益率が低下し、それ以上になると再び利益率が増大
するパターンや、Cの様に極めてシェアが大きくなった場合にも利益率が低下するパターンの3
つが認められている。Bはニッチ事業者が存在する場合、Cは十分大きなシェアを持っている事
業者がさらに利益率を向上させようと過剰投資を行う場合にみられる。
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これらは全て、当たり前のことのようであるが、実績データに基づいた結論であることに大きな意味があ
る。
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しかも、これらを単なる現象でなく、その目的を達成する方策としてみれば戦略立案においても大きな示唆
を与える。
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例えば、上記の結果を手段として書き換えると以下のような示唆が得られる。
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・ROIを上げるにはシェアを拡大することがもっとも確実な方法である。
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・PLC(プロダクトライフサイクル)の成長期に高シェアを持っていることで高い利益率が得られ
る。特に投資が大きな事業においてはこれが重要である。
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・成熟期における垂直統合は収益改善に有力な手段となる。
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・収益増大を狙うならば垂直統合は川下より川上を優先すべきである。
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・投資を平準化して行う方が収益的に優れた結果を生む。
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・資本集約的事業では稼働率を上げる方策が優先されるべきである。
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PIMSはその後も、ハーバード大学などに引き継がれ、依然多くの企業が参加し研究が継続されている。
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この成果の一つとして「戦略は明示的であるほど強固で、しかも、その基礎がしっかりしているほど成功確
率が高く、逆なら失敗確率が高くなる」との報告がある。
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よく知られた既存の原則、コンセプト、方法をアレンジしたもの、単に視点を変えて表現したものであって
も有用なものはある。ブルーオーシャン戦略などはその一つと考えられるがオリジナルとは違った示唆をも
たらし戦略立案においてヒントとなるものもある。
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また、アジル経営やリストラクチャリングのようにその時々で成功を収めた経営の考え方やブームなどもこ
れらと同様、発想のヒントとして有用なものも少なくない。
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さらに、企業が社会の一つの要素であることを考えれば、普遍性のある新たな考え方や規範なども発想のヒ
ントになるし、科学の中にさえそれを見いだすことができる。
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一方、「俗世間の決めつけ」や「俗言的な諺」などはむしろ悪しき選択をもたらすことが多いため留意しな
ければならない。
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