戦略立案における情報の役割(統合企業戦略の基盤理論4)

(統合企業戦略論の意味とサイト概要に戻る)

(サイトマップに戻る)



 戦略立案のための情報収集、調査実務の方法と対象

1. 情報収集、調査の仕方
戦略立案に関する調査のやり方としては "スパイラルダウン方式"が推奨される。これは情報収集や調査を戦略立案作業 と並行して行うとするものである。

・スパイラルダウンの第一段階
関連ある情報を対象としてランダムに全て収集する(最初は収集しやすい情報源に限定しても良い)

・スパイラルダウンの第2段階
第一段階で収集した情報を読み込んで内容を理解、把握し、収集、調査すべき対象・内容と対比して欠ける部分、 内容が明確でない部分、理解が難しい部分、論理が欠落する部分を見いだして、その部分の情報収集を行う。
戦略立案者のほかに情報収集を行うものがいる場合は、戦略立案者は収集した情報や分析の結果を総合して、大ま かな戦略オプションなどを想定し、それに基づく必要情報の的確な指示や調査目的を調査者に示すことが必要とな る。

・スパイラルダウンの第3段階(フィードバック)
第2段階で作成した仮設の中でも最も望ましい戦略仮説に的を絞り、それを成立させるのに必要な情報をピンポイ ントで収集する。どのような情報があればその戦略仮説が成立するかを見出す必要があるため、この段階では情報 収集能力だけでなく、論理力も要求される。もちろん、情報収集と検証でその仮説が適切でないことが判明すれば 新たな仮説を作成し再び第3段階をやり直さなくてはならない。



2. 情報収集、調査の対象
戦略立案の材料として、事業環境は「社会」「技術」「市場・顧客」「競合、業界」「製品」の5の観点から、自社に 関しては「ポテンシャル」「パフォーマンス」「ポジション」「プロダクト」※の4つの観点から情報収集、分析を行 えば良いことは既に述べた通りであるが、以下に具体的な対象となる項目、細目例を挙げておく。ただしこれは例示に 過ぎず、これ以外に具体的な対象項目がないというわけではない。(この項目、細目等は主に上記の第2段階の調査に おける目安となるものである)


2.1 事業環境の情報、調査の項目細目例

・社会
社会に関する調査の項目としては「国際」「政治・行政、法律」「経済」「社会の価値観」などがあげられる。
「国際」をさらに細分すれば「紛争・対立」「貿易」「地域動向」とグローバル課題である「エネルギー」「食 糧」などが挙げられるが、広範であるため対象は自社や自社事業に関連する地域、物資などに限定するのがよい し、自社事業への影響がどのようであるかを主とする。「政治・行政」も当該業界、事業に関連する部分だけを対 象とすれば十分であるが、具体的内容としては「政治の動向と結果(法律など)およびその影響」「行政方針と結 果(政省令など)およびその影響」」などが挙げられる。
「経済」では「為替を含む金融」「経済状態(景気)と予測」「関連統計値、指標」「関連主要地域の経済状態」 などが主要な細目となる。
「社会の価値観」は「一般の人々の価値観の変化」と「事業に関連する層の変化」が主要な細目となる。

・技術
技術の情報収集、調査では自社に関連する領域を中心に、それぞれに関する「関連新技術」「関連する技術動向、 課題・問題点」「新しい革新技術の芽」を対象として調査を行う。
その前に、関連する領域や自社の要素技術、特に基盤技術、各製品の基幹技術を把握していることが必要である が、それが把握できていない場合はこの時点で先行して製品・技術マトリックス分析等を行わなくてはならない。
技術調査は的さえ絞れれば、比較的容易であるし継続的に行っていることが望ましい。

・市場、顧客
市場の情報、調査は「(自社各事業関連の)市場規模と推移」「自社事業を含む産業の動向と規模推移」「市場セ グメントと個別市場規模」「セグメント毎の動向(伸び、動向)」「自社各事業毎の顧客構成」「層別顧客のニー ズ・特性・価値・選好要因」「各製品の市場価格推移およびその背景」などが主要項目となる。
市場動向は事業単位で把握するだけでなく、その上位(産業)、下位(セグメント)の市場も対象とすべきであ る。
生産財メーカーのように自社顧客がさらに顧客を持つ事業者である場合は「主要顧客である事業者の事業内容と動 向(その市場、技術、業界等も含む)」や「最終需要者の動向」などの情報や調査も必要となる。

・業界、競合
業界・競合の調査細項目は「業界、事業、製品別シェア構成」「業界特性(特異性)」「業界としての課題問題」 「業界平均利益率またはトップ企業利益率」「規模、利益、特性などで区分した競合各社ポジション」「業界全体 の変化もしくは共通の動き」「想定される新規参入」「マクロバリューチェーンでの当該業界の位置づけ」「参入 障壁」「KFS(成功要因)」「有力企業の戦略」などである。
この項目の調査に関しては情報やデータが乏しいことも多いが出処が明確であれば、業界をよく知る者の推定でよ い。
また、上記項目と重複する部分も多いが、マイケル・ポーターの5つの力※をもとに、その5つと相互の関係を調 べることで把握、理解することも検討に値する。
 


・製品
自社事業に関連するものだけに限るが「製品区分(セグメント)または製品分類」「製品区分毎の需要と動向」 「製品構成要素、材料およびその動向」「新製品とその特徴」「製品毎のライフサイクル上の位置」「製品トレン ド(変化の方向、傾向)」「次世代製品の有無とその想定」などが小項目となる。
これらは上記「市場、顧客」および次に述べる自社調査の「プロダクト」などと重複する部分が多いが、いずれか でカバーされていれば良い。




2.2 自社の情報収集、調査の項目、細目例
自社の理解、状況把握は競合他社や業界平均と比較して行うことが多いため、項目の多くは業界・競合調査と重なる部 分が多い。また、関連する優れた分析も多く、それで代替することができる部分が多いことも特徴である。

・ポテンシャル
ポテンシャル調査では「技術ポテンシャル」「営業ポテンシャル」「経営・組織ポテンシャル(人・文化、経営力 など)」「設備・資産ポテンシャル(設備・施設)」「その他(外部リソースなどを含む)」などを項目とする。

・・技術ポテンシャル
「個々の要素技術の強さ」特に「基幹技術の相対的な強さ」「基盤技術の相対的な強さ」「生産技術評価」 「研究開発力(人員、実績、実施内容)」「工業所有権(特許、新案等)および技術収入」などが細目とな るが、前3者は製品技術マトリックス分析を行うことで導き出せる。また、研究開発力の実施内容や現状は 技術戦略グリッドテーマポートフォリオで把握するのが良い。
 
・・営業ポテンシャル
「営業人員」「営業拠点」「営業外部リソース」「マーケティング実施内容と成功率」「市場・顧客の自社 製品に対するロイヤリティ」「企業ブランド力」「製品ブランド力」などが細目となる。

・・経営・組織ポテンシャル(人・文化、経営力など)
「人材」「職場環境(働きやすさ)」「理念浸透度」「組織効率」「意思決定の早さ」「上意下達効率とス ピード」「企業認知度とイメージ」「戦略力」「管理力」「ダイバーシティ度」「組織柔軟性(硬直性)」 「企画力」「情報収集力」「風土体質」などが細目である。この類のポテンシャルは定量的測定が難しく、 平均値や標準もわかりにくいものが多いため、その多くは社内アンケートなどによる評価や外部に依頼して 他社との比較で認識するものが多い。

・・資産・設備ポテンシャル(設備・施設)
「設備とそのパフォーマンス」「無形資産」「生産立地およびその環境」が主要細目であるが、3つとも競 合他社との比較が望ましい。(「資金、資産総額」などはBSなどで明らかになっており改めて調査する必要 はない)


・パフォーマンス
「PL、BS」「売上げ推移」「生産数量推移」「投資利益率を含む各種利益率」「キャッシュ(フロー)」「各種 財務指標(他社比較)」「営業効率(売り上げあたり営業コスト、営業マン一人当たり売上など)」「生産コス ト」などを細目とする。
これらは全体だけでなく事業毎、製品毎、生産コストに関しては社内バリューチェーンの形で細分された工程別に 把握できることが望ましい。これを行うのは大変であるが、生産システム、会計システムなどの情報システムにあ らかじめ組み込んでおくことで随時把握できるようにすべきである。また、それぞれ他社との比較ができればなお 良い。


・ポジション
「(業界における)自社の各種ポジション、各種順位」「自社製品の各種ポジション※、各種順位」が主な細目で ある。(これらはいずれも業界・競合分析やプロダクトに区分してもよい項目である)

※各種ポジションは様々な角度から見たポジションという意味で、数値だけでなく定性的なパラメーターやパーセプションマップなどで表現 されるものも含まれる。ここに挙げた各種ポジションは後述する製品市場マトリックス分析アドバンテージマトリックスをはじめとする 様々なポジション分析を行うことで得られる情報も多い。


・プロダクト
「プロダクトミックス(事業レベル、製品レベルの両方)」「自社製品バラエティ(製品ラインナップ)」「主要 製品の問題点または自社製品力」「セグメント毎の自社製品のシェア」などが細目となる。

※プロダクトミックスはポートフォリオ、製品力は製品力分析、セグメント毎のシェアは製品市場マトリックス分析でほとんど把握できる。


上述のように調査には分析を適用して行うことがあり分析と調査をあえて分ける必要はないが、各分析手法がどの項目 等と関係があるかの理解はしておくべきである。




 Copyright : AKATO All rights reserved.
お問い合わせはatrox20101@gmail.com